因果関係

 そこに君の車が無ければ・・・

 私が会社勤めをしていたころ、一週間に二度も追突事故に遭ったことが有る。いずれも地下鉄工事で鉄板を敷き詰めた仮設道路の交差点だった。

二度目に追突してきたのはコンクリートミキサー車で、私はその運転手に、つい言ってしまった「何回ぶつけたら気が済むネン」「いい加減にせんかい」と、彼は不思議そうな表情で『すいません、でも初めてですよね?』

 

事故現場からは近くだったので、車両係りに報告しようと彼にも会社に来てもらった。

ところが帰社された直後の会長とバッタリお会いしてしまった。

 当然事故の状況を尋ねられた。私は週に二度も・・と半ば自慢げに事故の模様を話していた。『それで二人とも怪我は無かったんだね、それは何よりだった』その時は、何とか理解して頂けたようだと思った。

 ところが応接室に入るなり会長は『私どもの社員のために、ご迷惑おかけいたしました』と相手の運転手に詫びるように言った。

 え!それは違うで私が被害者なんです、会長、やっぱり分かってくれていない。

 

 そのあと、会長に呼ばれた。どうやら私を加害者と勘違いしているに違いない・・そんな理不尽な、私は世界一不運な男と思いつつ会長室のドアを叩いた。

『君は週に二度も事故を起こしている、何か感じませんか』 私は追突された自分の運の無さを説明した。すると『運が無いんじゃなく、君には徳が無いんだよ』そう以前、他の部署の上司と口論していた時にも同じ言葉を言われたことが有る。君には徳が無い!と

『君が赤信号で止まっていたと言うが、そこに君の車が止まっていなければ追突事故は無かったかも知れない』

 

 そういえば怪我するほどは強くは当たっていない。路上の鉄板が濡れていたため止まるつもりがスリップしたように運転手は言っていた。

でも私は赤信号なら停止の義務がある、だからこそ今までにも私が加害者に相当するような事故は防げている、だから運とか徳の話じゃありませんと反論したのである。

 会長は言った『追突事故は一人では起こらない、相手が居るから起こるんだよ、これを因果関係って言うんだ』 『どんな場合でも半分は自分にも原因が有るんだと反省出来る人になりなさい』 

『最初の事故の時に、もし君が反省できていれば今日の事故は無かったかもしれない』

 これはまるで理屈のマジックだ、完全に力関係で威圧されている、私は心からは納得はできなかった。

会長は私の不満そうな表情から察したのだろう。

 『今日の事故で、もし君が大怪我でもしていたら、君もつらいだろうが我が社にとっても、とても悲しいことになるんだよ』

『だから因果関係を悟って自分を反省しなさい。それを積み重ねることで君にも少しは徳が生まれ育つと言うことだ』と、今は亡き私の尊敬する会長は笑みを浮かべながら私に話した。


Willful gunny

過去から現在の出来事を実体験から解説しています。

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