遅刻とアイス

このお話は、私が以前、会社勤めをしている時の出来事である。

大阪は阿倍野区に、大手企業が出資する、レジャービルが建設されることになった。

ビルを建てるには勿論、まずは工務店が箱を作ることになる。しかし箱だけでは生活も仕事も出来ない。だから、電気・水道・ガスなどのライフラインは勿論、エレベーターをはじめ多くの設備業者の協力が必要となる。

つまり、あなたが勤めるオフィスや、大切な家族が住まいするマンションも、それは沢山の専門業者の技術と人手によって造られている訳だ。(そんな事ぐらい知ってるよ!)

 でも、それらを総括して設計する人が居ると言うこともご存じ? あ~そ、ご存知でしたか、それは、どうもすいません。

 でもね、そのレジャービルを設計した先生が少し変わっていたこともご存知でした? 知らないでしょ、(知るわけないだろ!)・・それではお話してみましょう。


 ある日の午後、設計事務所の先生からの要望で、施工業者を集めての合同打ち合わせ会が設定された。

勿論、私も召集されていた。 私は、指示されていた時刻の5分前に到着すべく、会社を出た。

 当時の私は、約束した時間より早く到着すると、その分の時間が、何故か損をしたような気がしたんです。だからと言って、遅れて到着することで、決して得すると感じていた訳ではありません。

 地下鉄にすればよかったのに・・想定以上の車の停滞が原因で、何のことは無い、初会合だと言うのに、早速、遅刻してしまった。

 現在のような携帯電話も無い時代、現場には何の連絡もできなかった。


「遅くなって、すいません」と私は謝罪しながら会議室の扉を開けた。

静まり返ったその部屋には、既に20社ほどの業者の担当者が着席されていた。

 設計事務所の先生は、決して荒立てず、むしろ穏やかな口調で「そちらの席にお掛け下さい」と手のひらで案内をされました。

私は見ような静けさに、責務を感じ、着席前に、すべての方にもう一度「すいません」と頭を下げました。

 「お待たせ致しました、それでは皆さん、頂きましょう」と先生がご挨拶されました。 すると、皆さんは、テーブルに置いてあった、カップの蓋(ふた)を開け始めた。

 私のテーブルにも置いてあった。それは、化粧箱でアイスクリームとは一目でわかった。みんなの様子を真似るように、私もそのカップの蓋を開けてみた。

 でも、アイスでは無かった。アイスは既に融け、クリームがスープ状態になっていた。


 設計事務所の先生は更に穏やかに、私に話し始めました「今日は、初会合なので、私の気持ちでアイスクリームを用意させていただきました」ところが、御社だけが来られていない。

そこで、集合時間が過ぎましたので私が「融けないうちに召しあがりましょうか?それとも、少しだけ待ってやりますか?と尋ねると」みんなが「待ちましょう」と言ってくれたのです。

 それを聞かされた私は改めて、皆さんにお詫びをする始末。そして木のヘラでは到底、掬(すく)えない融けたアイスを、皆で啜(すす)るように頂いたのである。

 つまり、私が遅れた時間・・協力業者の皆さんは、待ってくれたんですが、無情にもアイスは、融けるのを待ってはくれなかった。

ここで、「自らを反省し、仲間へは感謝」と言うことを、アイスのプレゼントでご教授くださった設計事務所の、あの先生・・なんともユニークだったな。


Willful gunny

過去から現在の出来事を実体験から解説しています。

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