5)家族旅行
5)家族旅行
「旅行はやめてんか、こりごりや」
娘が探してきた、ペットも入浴できる温泉旅館。
この夏のお盆休みはガニー君も一緒やで、
『嬉しいなーガニー君』
「ワシは嫌や、留守番しとくから餌だけ置いといてくれ」
でも何日もガニー君一人で家に置いて行くことは出来ない
だからペット歓迎の温泉旅館にしたのである。
ペットの移動用バスケットに入ったガニー君は切ない声で鳴き続ける。
そして100メートルでも走って来たかのように息が荒くなる。
「ウ~ウォ~オ、ハァッ、ハァッ」とこれを交互に繰り返す。
温泉地に向かって走り出した車の中で、早速ガニー君の奇妙な鳴き声が聞こえ始めた。
あまりにも荒い息をするため、娘はバスケットからガニー君を車内に解放してしまった。
私は大声で車中の皆に注意した。『危ないがな、あかんて』
ガニー君がアクセルやブレーキペダルの後ろ側に隠れたらペダルが効かなくなる。
だから大声を出したのである。
だが、その予感は的中した。おりしも車は高速道路を走行中である。
運転中の私は勿論、このことではどうにも体を動かせず何もできない。
あの時は、確か助手席に乗っていた息子がつまみ出してくれたと記憶している。
ガニー君が言ってた通りだ、連れて来るんじゃなかった。
でも反省はこんなもんでは済まなかった。
旅館の部屋でバスケットから解放した瞬間、押入れだったかどこかの隙間に隠れたきり、
餌は勿論一滴の水も飲もうとしない。いつもと違った環境を警戒しているようだった。
「猫の習性を勉強もしないで、人間の勝手で連れて来るなよ」
私にはガニー君の愚痴がよく理解できた『かんにんやで、ガニ君かんにんしてや』
幾ら謝っても伝わる筈がない。
「気持ちの悪い、揺れる車なんかに乗せられて」
「旅館に着くまでのワシは何時間も地震の中やった」
「ワシらは違った環境では暫らく食餌が出来ないくらい勉強してや」と叱られっぱなしの夜だった。
夜中に音がするので目を覚ますと、トイレの前に置いていたペットフードをガニー君がガリガリと音を立てて食餌してくれていた。
『ごめんな、ガニー君』
でも帰路に砂丘に寄ったとき、砂地に下ろすと怖がったガニー君は助けてくれるなら誰でも良かったと見えて、この私の胸に飛び上がってきたのである。
呼んでも来ない、抱き上げれば嫌がるあのガニー君が自ら私にすがり付いてきたのである。
嬉しかったね、私もガニー君の家族だったんだね
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