「お早う」
6)「お早う」の挨拶
私がまだ布団から抜け出せないでいるとき、老猫のガニー君は朝食のために私より少し早く目を覚ます。
宵のうちの彼(ガニー君)の寝床は女房の布団の中にある。
そう、女房の腕枕である。
彼女は「手がしびれるから」と迷惑そうに私に愚痴をこぼすが、
自分が休んでいても布団に入って来ないと、無理に連れ込んだりしている。
どこまでが本心やら、
だが彼は深夜になると自分専用の寝床に移動している。やはり布団の中での就寝となると落ち着かないようだ。
ここまで話すと奥さんがガニー君にはメロメロであることがバレバレである。
私と奥さんの布団はいつも東の窓を頭にして敷いている。
彼女と枕の向きは同じだが、お互いの布団の間を約30cmほど離している。
これで互いの距離感が想像できようものである。
だから彼が起きたときはこの隙間を通路として朝食やトイレに出かけるのである。
私たちの布団の上を斜めに歩けば近道なのだが 彼は育ちが良いのか、爪が布団に捕まるのが嫌なのか、何時もこの通路を利用している。
私がその通路の方に体を横にしていると、私の目の前を彼が通り過ぎて行く、しかもニャ~ゴ、ニャーゴと叫びながらである。
彼なりに朝の挨拶をしているのか?
私も返すように挨拶した「ガニー君、お早う」と衝動的に。
すると、なんと彼も挨拶で返してくれた「おはにょう」と
彼の挨拶を初めて聞いた時は「たまたまだよ、偶然だよね」
と判断し面白がったものの、あまり気に留めなかった。
当然その時、休んでいた女房に話しても馬鹿にされただけだった。
でも、その後も私の寝床を同じようなタイミングで通過するとき
「ガニー君、お早う」と声を掛けてあげると、
「おはにょう」と挨拶が帰って来る。
やっと私と彼との心が通じたと、凄く嬉しかった。
女房も一緒に聞いていた「ほんと、賢いね」
感想はそれだけだった。
彼が19歳になって亡くなるまで、お互いの挨拶は続けられた。
面白いのは、昼間に挨拶しても「おはにょう」の鳴き声は
返って来なかったことだ。
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言葉が話せない動物だからこそ
挨拶出来ただけでとても楽しい
それは勘違いだとしても嬉しい
言葉を持たない彼と少しだけ心が通じた
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